その昔、ちょっとだけ付き合った年下の理系男子くんとは、ことごとく趣味が合わなくて。

同じ身長で、体重40㎏推定Dカップの元カノと比べられたり、鋳物の知識を復唱させられたりと散々だったけれど。

でもその中でひとつだけ、いいなと眺めていたのが、革の鞄の手入れをする姿。
尊敬する上司からもらったという、年季の入った鞄を彼は愛用していて、毎晩寝る前に汚れをとり、磨き込んでいた。

あれから早10数年。

顔も誕生日も、なんなら名前すら忘れかけているけれど、その光景と、革製品を磨いて使い続けるという行為への憧れのような気持ちは心の片隅に残った。

・・・なーんてことを、彼は知る由もない。

 

 

2015年10月のある夜。

めったに来ることのない街中を、早足で歩く。
足元には、お気に入りのマニッシュな革靴。一目惚れして買ったはいいものの、美しすぎてなかなか普段は履けなかったりする。

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勢い込んで飛び込んだカフェには、懐かしい顔。

 

「あ、来た」

 

まるでこの間会ったばかりかと思うくらい、拍子抜けする第一声を発するアニー。
・・・たしか、会うのは数年ぶりのはずだけれど?

 

「ごめんごめん、距離読み間違えた」

 

ま、そう返しちゃうんだけれどね。ブランクなんて感じさせない、揺るがないアニー。好きよ。
貴女のおかげで、10数年越しの憧れが今宵わたしのものになる。

 

 

靴磨き職人の明石優さんは、

 

「靴磨きは、もっとも歴史あるエコ、サスティナブル」

 

そんな言葉でしょっぱなから、心を掴んだ。

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「新品の靴は、靴とは呼べないとも言われています。・・・なら何て呼ぶんだってことなんですけど(笑)。時間と手をかけ育て、だんだんと自分の靴になっていく。20年履ける靴に育てましょう。傷すらいとおしくなりますよ。」

 

おおおおお。(大好物な世界観に引き込まれる声、または音。)

 

いそいそと靴を脱ぎ、テーブルの上へ。
この時点でも十分美しいのになぁ、と思ったことを、小一時間後二重線で訂正するのを、このときのわたしは知らない。

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クラシカルな靴磨きの流れは、スキンケア&メイクアップに似ている。

よごれ落とし → 栄養注入 →  お化粧

ほぼ指を使って行うところも、よく似ている。

 

靴磨きの会参加2回目のアニーは、隣で楽しそうに磨き込んでいるけれど、初めてで不器用なわたしは、これでいいのか、周りから遅れてしまっていないか、静かに葛藤中。しかし、そのうち、「そんなことどーでもいーや」と、ただただ靴との世界に没頭していく…。

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磨き込んだ靴は艶々で、左右に個性が生まれていた。そのことに少し戸惑ったけれど、20年付き合っていくと決めたのだ。心を広く受け止めなければ。

磨かずして美しいと思っていた姿は、今となってはひどく栄養を欲していたようにしか見えない。

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やっと心に余裕ができてほかの人の靴にも目をやると、どの靴もピッカピカ。まだ一度も履いていないアニーのローファーでさえも、違いは歴然だった。

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恐るべし、靴磨き。

 

仕事や人付き合いに忙殺される日々のなか、革靴を磨き込み、育てる時間を「必要な時間」として組み込めたら、それだけで、思い描く理想の生活に数歩近づく気がする。大切にしたいものを、優先したい。

 

「今度、取材をさせてください!」
そう告げた数日後、テレビの画面に大きく映し出されていらっしゃる明石さんを観て、小心者の決心はぐらっと揺らいでいるのだけれど。(すごい方だったんですね、明石さん。)

 

近いうちに実現させて、靴磨きの魅力にみなさんにもどっぷりとはまっていただこうと企んでおりますよ。
靴磨き×エシカル。乞うご期待。

 

 

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さぁ、20年後までキミをなんと呼んでやろうか。

 

 



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